「農村婦人活動と普及の手法」S63

農村部におけるフェミニズムの展開をあらためて確認してみようと思い、数冊の本を借りてきて、その中でも戦後の生活改善運動の事例から見直してみようと思い、「農村婦人活動と普及の手法」日本農村生活研究会西日本支部 昭和63年を少しまとめてみた。

この本は昭和60年、61年の研究集会のまとめであるとのことだが、その「発刊にあたって」を読むと当時の問題意識が見えてくる。

・・・農家の生活はかっていわれたような「貧しさから解放」され、「経済的な豊かさ」を手に入れることができた、というべきかもしれません。
(中略)
家庭生活の崩れ、あるいは農村地域社会における「つきあい」のチャンスのそう失等々、かってはなかった社会的症候群が発生し、それが「新しい貧困」の具体的内容となっていること、しかもこの「新しい貧困」によって家庭と農村地域社会の生活システムが内部から崩れてきていることは、正しく認識しなければならないと思います。ですから、私たちは農村・農業の到達目標を問題にするときには、「経済的豊かさ」だけでに目を奪われるものではなく、「新しい貧困」にかわる「人間的豊かさ」の追求という課題も視野に入れなければならないといえます。

さて、ここでこの本の中でどのように「人間的豊かさ」が語られているのか、見ていきたい。本の中では、まず事例紹介が行われ、最後の8章と終章がまとめに使われているという構成である。この事例紹介をまず一つずつ概観してみたい。(「」内の引用を除き、タイトル以降は当ブログ筆者のまとめ/本書での章単位の整理は割愛している)

1.農村集落における生活雑排水の処理事例

2.ホウレンソウ生産労働の軽減対策
-収穫-調整作業の作業姿勢の改善のための器具開発

3.生活改善グループ活動と生活改善施設活用の実態
-行政機関などからの村づくり活動などへの対応を迫られる
-活動内容が加工にかたよりすぎる
-生活改善グループが取り上げている課題
:農産加工 20.8% 生産物の有効利用 19.6% 保存食や行事食などの共同加工
11.1%

4.中核農家の生活運営と指導手法
-内容的には実態把握とそれに基づく生活設計の提案。
-農繁期における家事と農作業時間というグラフが提示されており、長男妻の労働時間が最も長く(農作業7.26/家事7.35h)次に経営者妻(農10.35h/家事3.06h)、経営者主(11.44/1.05)長男(9.44/1.45)などとなっており、家事の省力化、分担などの配慮が必要であることが読み取れるとの記述がある

5.近畿・中国地域における農村高齢化の現状
-高齢化の現状分析と高齢者の位置づけとして、「高齢者問題は、地域農業およびのうそんをいかに再編成し、つくりかえていくか…高齢者の生き甲斐を実現し、同時に高齢者を地域社会における不可欠な人材として位置づけていくこと」としているが、主として高齢者を農業生産の中に位置づけていくことを、高齢者を適切に活用できるような方向での農業生産を提起している。

6.旭村における高齢者の地位ならびに役割行動と今後の課題
「高齢者自らが生きるすべとして社会的役割を見いだし、その責任を自らが担い、住んでいる人々とともにむらおこしのエネルギー源として社会参加することが必要である・・・高齢者の役割が活性化する地域システムを目指し・・・」

7.夏秋キュウリ産地における婦人グループ活動と今後の課題
「健康づくりをとおしてのキュウリ生産婦人部の育成とキュウリ生産婦人を含む集落・地域に根ざす婦人の組織化をはかった」
-婦人グループが複数組織され、文化祭で地域の産物を生かした手作り品を展示したり、規格外のキュウリ加工に取り組んだ
「今後一層のグループ活動が「住みよい村づくり」に向けて前進するよう期待して援助していくことが必要である」

8.ミルクとシルクの町づくりと普及活動
「乳牛の搾乳と炊事時間の競合で充分な食事の準備ができない悩みや、葉タバコ栽培による主婦の労働過重が問題となり、貧血者や高血圧者が増える傾向にあった」・・・「貧血をなくして元気で働く」ことを目標に、①食事の工夫、②広う大差宇、③健康づくりの意識の高揚、④上手な働き方の具体策を検討し、実践していった」
-加工事業への参入

9.自主的なむらづくりと普及活動
「自分たちのむらは自分たちの力で興していくこと」という方針での村づくり。特に女性の活動としては位置づけていないが、目標と実践事業(P94)の一覧を見ると、女性を主たるターゲットとして活動していたのだろうとは想定できる。

  1. 兼業地帯の農村婦人
    「婦人達のこのような力強い活動の原動力は、農業生産への寄与率の高さとともに、直売による現金収入、消費者と密着しているという自信によるものと思われる。」
    「その根底に「生命と食と農」を同時に捉えうる婦人達の発想が組み込まれなくてはならない。これこそ、今後の農業振興にとって、果たさるべき重要な農村婦人の役割であると考える」
     
     
  2.  生活・農業の合理化に取り組む兼業地域の婦人活動
     -「新郷土料理の開発」:高齢者の生きがい、伝統食をとおして、若い世代にふるさとのよさを。
     -ゆず加工品の開発

12.兼業地帯のおける生産集団と婦人
-農家後継者層が都市に流出して、農業労働力としての婦人の役割によるところが大きい。
-集落営農婦人講座の開催:婦人も集落営農の要員として経営に参加できるように
-集落営農の意義を学び、農業を生かした手づくりの幸に取り組もうという意欲が、在宅内職婦人たちの間に出てきた。

13.むらおこしと婦人グループの力
「日中若壮年層が不在の農山村は、どこでも婦人と高齢者が農業と地域のくらしを守っている。」
-都市との交流事業
-環境美化運動
-加工品の開発

14.中山間多品目生産地帯における婦人の役割
「主婦の役割は、農作業、家計の運営、さらには村うちの交際に及び、極めて忙しい」
「婦人グループの活動を評価し、経営主たちも加勢に乗り出そうとする雰囲気がうまれつつある」

-広範なテーマでの女性たちの参加による村づくり

15.いきいき里の味づくりをめざす婦人たちの活動
「30代から40代の若妻たち」がリーダーとなり、加工事業の推進
「里の味づくりという生活改善課題への取り組みをとおして、既存の古い因習や価値観等をよりよいものへ買えていく原動力の役割を果たしている」

16.農家後継者育成と農村主婦の役割
-後継者問題は、親世代が子世代と語り合えない。特に父親が無口で機嫌が悪い場合
「地元就職する場合、男子は第二種兼業に、女子は結婚(婿とり)によって家業を継ぐ傾向がみられる」
-母親が家族関係に心を配り、話し合える雰囲気づくりをしているかどうかが重要
「あととりに嫁は欲しいが、娘は農家の嫁にやりたくない」
「子女が農業を好きになる家庭は、概して農業経営が充実しており、家族関係が円満で、家庭内の仕事の分担が明確である。また働いている家族員はすべて自分の自由になる小遣い銭を持ち、家計(財布)は夫婦単位になっている」

17.健康管理活動と婦人の役割
ー高収入の園芸地帯での健康問題の多発
「農家の労働力の再生産を家庭生活に求め、さらに農業労働力の大半を婦人に期待する時、労働の過重にあえぐ婦人を支えるのは家族の協力の他にない」
「婦人の労働を軽減し、社会参加をめざすための条件について・・・1)新しい家族のあり方 もっとも高い農業所得をあげている園芸地帯では、生活優先の思想が後退している。婦人たちの家庭生活を支えている仕事が正当に評価されずに、農業生産の担い手という評価が高い地域では、誰しも高い評価の方へ関心が傾くのは人情である」

→「家族生活がおろそかになる」≒食事がバラバラetc
2)婦人労働の社会化、共同化 
「ただでさえ忙しい農家の婦人たちに「家庭生活の重要性について再検討を求めることは、精神的な負担を加重することになりかねない。さらに加えて社会活動への参加を求める時・・・」→社会化・共同化を資本の餌食にならないように・・・
3)婦人たちの意識の啓発
「婦人を重労働から解放することは、婦人の地位向上の手段である・・・家事労働についての認識と訓練を、長期的で国民的な視点から向上させることが肝要・・・訓練の場、実践の場は家庭生活であり、新しくあるべき男女の役割であると考える」
「婦人の解放、地位の向上、さらには家事の男女共働にしても、他の誰かがやってくれるものではなく、まず自己への問いかけにはじまり。それを行動に移して行くより他に方法はない」

第8章はシンポジウムの結果からのまとめとなっている。
「各種の組織、集団において、存在感のある構成員として、婦人たちはもっとも得意とする領域、分野である野菜を中軸とする作物栽培と、農産物の付加価値を田負ける新しい加工品の開発に意欲的であり・・・こうした時代対応的な役割とは別の農村婦人ならではの役割として、生命を育む母性機能にもとづいた「食と農を守る」役割についての自覚と自信、使命感についての確認がなされた」

 農村部で、農業を支えるのが高齢者と女性ばかりというような時代の中で、自家農業の中に、集落の経済活動の中に、そして村づくり活動の中にも女性を位置づけていくという視点が、やはり中心であったと言えるだろう。農業改良普及所を拠点とする生活改良普及員の業務の報告が中心であるのだから、それは致し方ないのかもしれないし、女性の生活改良普及員による活動という中で、ターゲットも女性たちに限られていたということもあるのだろう。
 しかし、「経済的豊かさ」に加えて、村づくり等「人間的豊かさ」を求める活動も女性たちに担わせただけだったのではないか。 
 17の報告では、その問題にも言及されてはいたが、その解決への取り組みはそれぞれに任せられ、まとめの章では、「食と農を守る」役割についての自覚と自信、使命感についての確認がなされた」として、農村社会の維持、この本の捉える「人間的豊かさ」の維持も女性に委ねられてしまったと言えるのではないだろうか。(2025/3/1)

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